よるのふくらみ

 

おはようございます。

 

先週くらいに、はてなブログからもう1ヶ月ブログを書いてませんよっていうメールが来た。わかってるよ。

記事を書かなかったこのひと月は楽しいことだらけでした。楽しいことだらけで、何かについて考えたりすることがあんまりなくて、いい意味で頭を使わずに過ごした春休み前半。充実していました。

冷静に考えて、2ヶ月間学校がないってすごい。60日強を全部自分の好きなように使えるって、こんなスペシャルな期間はこの先あるんだろうか…

とはいいつつ、遊びにバイトに、言うなればたくさんの予定をただただ消化するように過ごして、気づけば3月も半ば。大学の1年目が終わろうとしています。

秋学期の成績はひどいものでした。かろうじて進級はできるらしいので、できなかった友人達を後目に颯爽と2年生になります。

 

今日はとても嬉しいことがあったので、どこかに残しておこうととても久々にはてなブログを開きました。「よるのふくらみ」です。

 

忘れもしない2月2日、二子玉川駅で友達と待ち合わせをしたときのこと。駅構内の本屋さんに立ち寄った。大体の本屋さんは文庫本が1番手前に並んでおいてあって、当然その店もそうだった。でもひとつ違ったのは、同じ本がひたすらに何十冊も並んでいたこと。

「オトナに読んで欲しい恋愛!今この小説がアツい!」みたいなことがポップアップに書いてあったと思う。

オトナ、恋愛、という響きは19の私を刺激した。方向音痴の友達が乗る電車を間違えたらしく遅れるとのことなので、少し立ち読みして待つことにした。

端的に言うと、不倫の話だった。

別に私はそういう性癖がある訳でもないけど、なんとなく表現が身近で、読みやすい本だった。

一通り登場人物たちの概要がわかるあたりまで読んだところで友達が到着し、手持ちが少なかったこともあってその時はそのまま本を棚に戻して出掛けた。

あんまり二子玉川駅がその本を全面に推してたものだから、特にタイトルを覚えたりしなくてもまたどこかの本屋で見つけられるだろうと思っていた。だからタイトルも作者も出版社も注意して見ずに店を出た。

それが間違いだった。

それからどうしても続きが読みたくて、本屋を見つける度に文庫本コーナーを漁り、あの本を探した。かすかに覚えている特徴は表紙が青っぽいことと作者が女性なこと、なんとなく気持ちの悪い響きのタイトルだったこと、そして商店街の中で不倫を起こす話であること。この手がかりだけで本屋から一冊見つけるのは、案外大変だった。

あらすじを覚えているなら、店員さんに聞けば探してくれるかもしれないと思った。でも、「同じ商店街に住む旦那の弟と不倫する本を探しています」とは言えなかった。だから、自分の目で、青い表紙を探し回るしか手がなかった。

二子玉川駅ではあんなに推されていたというのに、ほかの本屋では本当に全然見かけない。あの強烈に並んだ景色はなんだったんだ。幻か。

そんなことを思いながら2ヶ月弱が経過して、今日は池袋の無印に用があったのでルミネに行った。無印の下の階に本屋があって、例の如く手前には最近映画化した文庫本が主演のコメントと共に並んでいる。気になる本がいくつかあって、2.3冊選んで買って帰ろうと思った。でも私は、あの本を読むまでは自分は新しい本を読めなかった。誰にも止められていないけど、なんとなくアレを読むまでは違う本に手を出したくなかった。いつもしていたように必死にアレを探した。幸か不幸かその店は文庫本のコーナーがそんなに広くなかったので、置いてある全ての本を一通り見回すことが出来た。しかし、しかしアレは見つからない。ここまで見つからないと、もはや表紙が青かったという記憶も間違っているのではないかと思い始めた。それでは青だけを頼りに探しているうちは一生見つからない。

「文庫本 不倫 幼馴染」みたいな検索を何度もした。でもそんな小説多分いくらでもあるし、「不倫をしてしまいました。…」なんていう知らねえよボタンを5億回押したくなるようなYahoo知恵袋ばっかり出てきた。

決意した。「二子玉川駅に行こう」。

池袋から二子玉川は30分程度。諸事情で私は田園都市線があんまり好きではないけど、今回ばかりは仕方ない。そう思ってルミネの本屋を出ようとした途端、一案の不安が頭をよぎった。私があの本を立ち読みしたのはもう2ヶ月近く前。現場に行ったところで同じ本が同じ場所に、しかもあんなに目立つところにあるか?もし行ってみて文庫本コーナーに全く違う本達が並んでいたら、間抜けな自分と往復1時間と700円の出費に心底絶望するだろう。

そこで思いついたのが、電話だ。

電話して聞いてみよう。でも何をどう聞く?その時の私はちょっとおかしかったんだと思う。私はブックファースト二子玉川駅店に電話して、「本を探しています。2月の頭に、店頭に置いてあった、青い表紙の、作者が女性の。」そんなことを言った。

「もう少し詳細の情報はありますかね」真っ当すぎる返事が返ってきて、そりゃそうだよな、と思いながら諦めかけた。「えっと、恋愛ものだったと思います。」商店街内での不倫だって恋愛だ。

「2月の頭に置いてあったやつです。同じ本がたくさん。ポップアップとかもあって」「いやー、1ヶ月以上も前ですから、ちょっと記録が…」ここまで店員を煩わせたことは今まで無かったと思う。

さすがにこれ以上駄々をこねるのは迷惑極まりないと思い、引き下がろうとした時。

「よるのふくらみ、ですか?」

私はあの男の店員さんの声を一生忘れないと思う。よるのふくらみ。なんとも気持ち悪い響き。それだ。紛れもなくあの本のタイトルはよるのふくらみだ。それだそれだそれだ。私が2ヶ月探し続けた本のタイトル。よるのふくらみ。よるのふくらみ。

「それならまだ同じ場所に置いてありますから、お時間のある時にいらしてください」店員さんはそう言って電話を切った。

しばらくひとりで呆然とした。思い出せないというよりは最初から覚えていなかった、でも聞いた瞬間に確信が持てたタイトル。

できることならそのまま二子玉川に行って、またあの時と同じ棚からよるのふくらみを手に取って購入したかった。でも、いま自分がいるのは本屋。もしかしたらここで買えるんじゃないか。一刻も早く、この興奮が冷めないうちに、私はあの青い表紙が見たかった。

「よるのふくらみ、置いてますか」丸眼鏡のレジの店員さんは可愛かった。

「在庫確認しますね」あんなに笑った顔の可愛い書店員は初めて会った。茶髪のボブにべっ甲の丸眼鏡。度が強すぎて目が小さくなるタイプの眼鏡。天使に見えた。

彼女が裏から持ってきてくれたのは、コンクリの上を歩く女性の足の写真に青っぽいフィルターのかかった表紙の本。紛れもなく、私の記憶の奥底にあった「青っぽい表紙」だった。

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これを目にした瞬間の衝撃といったらもう。生き別れの兄弟と対面したような、子どもの頃好きだったアニメの主題歌を偶然耳にしたような、なくしたと思っていた元恋人からの手紙を見つけたときのような、そんな感動があった。ちなみに生き別れの兄弟はいない。

2ヶ月温めたものを読み進めてしまうのはなんとなく勿体ない気がして、まだ続きを読めていない。時間の流れがこの本の価値を上げに上げてしまって、実際最後まで読んでみたらたいして面白くないかもしれない。だけど、本を見つけてここまで興奮できたのは人生で初めてで、本の内容がどうであれ探し回ったこの2ヶ月はなんだか楽しかった。ありがとうよるのふくらみ。

 

明日から箱根に行きます。勇気が出たら、電車の中で読もうと思います。どうか後味の悪い、読み応えのあるお話でありますように。